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知られざる重要鉱物「りん」― 未利用りん資源の活用に向けて ―

 私たちの生活に欠かせない元素でありながら、その重要性があまり認識されていないものの一つに「りん」があります。りんは窒素やカリウムと並んで植物の成長に必須の元素であり、私たちの農業を支えています。また、私たちの体内にも存在し、生命維持に不可欠な役割を担っています。他にも半導体、表面処理剤、電気自動車向け二次電池、医薬品、加工食品等、多岐にわたる産業分野で利用されており、日本は世界有数のりん消費大国となっています*1*2。一方で、日本はりん鉱石およびりん製品を全量輸入に頼っています。りん製品の一つである黄りんはベトナム、その他のりん製品は中国からその大部分を輸入しています*1*2

 今後、世界的な人口増加と経済発展、特にアジアにおける食の欧米化によって、りんの消費量は増大すると予想されています。加えて近年の地政学的リスクの高まりも、りん資源の安定供給を脅かす要因になります。このため、国内で利用されるりんの循環使用や未利用りん資源の活用など、輸入に過度に依存しない仕組みの構築が求められています*1*2

 未利用りん資源の活用について、いくつかの取り組みが進められており、その一つが下水汚泥や食品廃棄物等からのりん回収です。例えば、神戸市が進める「こうべ再生リン」のように、下水汚泥からりんを回収して再利用する取り組みが各地で進められています。

 近年、未利用資源として製鋼スラグが注目されています。製鋼スラグは、製鉄の副産物として年間1,100万トン以上発生しています。製鋼スラグには原料の鉄鉱石や石炭に由来するりんが含まれており、その総量は日本が輸入しているりん鉱石とりん製品に含まれる量の合計の約半分に相当すると試算されています*1。日本は主にオーストラリアから鉄鉱石を輸入しています。この鉄鉱石に含まれるりんの量は将来増加すると予想されており、製鋼スラグに含まれるりん量も上昇するとみられています。

 このような背景から、製鋼スラグからりんを回収する技術の開発が進められています。例えば、国立研究開発法人新エネルギー・産業総合開発機構(NEDO)の「鉄鉱石の劣質化に向けた高級鋼材料創生のための革新的省エネプロセスの開発」プロジェクト(2019~2023年度)では、製鋼スラグからりんを効率的に回収する技術が開発されています*3 。この技術で回収されたりんは黄りんや肥料として資源化でき、今後の進展が期待されています。

 未利用りん資源の活用は、私たちが持続可能な未来を築くための重要な一歩です。これらの取り組みがさらに加速し、りん資源の安定供給と有効活用が実現されることを期待します。


参考文献
*1 大竹久夫,常田聡:環境バイオテクノロジー学会誌, Vol.19 (2019), No.1, p.59-65
*2 松八重一代、大竹久夫:日本LCA学会誌, Vol.14 (2018), No.2, p.134-140
*3 「鉄鉱石の劣質化に向けた高級鋼材料創生のための革新的省エネプロセスの開発」(2019~2023 年度実施)の成果概要, JRCM NEWS Vol.450 (2024.10), p.2
https://www.jrcm.or.jp/jrcmnews/2410jn450.pdf(参照日:2025年5月15日)

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