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資源循環型社会を支える吸着技術

 持続可能な社会の実現に向けて、資源循環の重要性がかつてないほど高まっています。限られた天然資源を採掘し続ける従来の線形経済モデルから、資源を繰り返し利用する循環型経済への転換が、今や世界共通の課題です。

 資源循環を取り巻く国際情勢は近年急速に変化しています。政策面では、EUが2024年にエコデザイン規則を発効、また企業持続性報告指令(CSRD)により資源循環の情報開示を義務化しました*¹。日本においても2024年4月に「再資源化事業等の高度化に関する法律」が成立し、さらなる資源循環の促進を目指しています。経済面では、サーキュラーエコノミーの市場規模が日本国内で2030年までに80兆円、世界全体で2050年には25兆ドルに達すると試算されており*²、新たな成長分野として注目されています。

 この資源循環を実現する技術的基盤の一つに吸着材料があります。吸着材料は、その多孔質構造や表面官能基によって、溶液や気体中の特定の金属イオンを高効率で分離・回収できます。この技術によって廃棄されていた資源を再び産業サイクルに戻すことが可能です。

 今年、吸着材料に関する大きなニュースがありました。吸着材料の一つである金属有機構造体(MOF: Metal-Organic Frameworks)の開発により、京都大学の北川進特別教授、豪メルボルン大学のリチャード・ロブソン名誉教授、米カリフォルニア大学バークレー校のオマー・M・ヤギー教授の3名に2025年ノーベル化学賞が授与されました*³。 

 MOFは金属イオンと有機分子が規則的に結合した結晶性多孔質材料です。ロブソン氏が最初にMOFを作製しましたが、このMOFは非常に不安定な構造でした。北川氏は、安定性を向上させたMOFを作製し、そこに大量の気体が吸着・脱離できることを実証しました。ヤギー氏は、新たなコンセプトのもと非常に安定なMOFを作製し、現在のMOF設計の基盤となる概念を提唱しました。そして、これら材料を「金属有機構造体」と命名しました*⁴。筆者はノーベル化学賞の記念講演を動画で観ましたが、各受賞者はMOFの基礎からより詳細な応用可能性までを分かりやすく解説されていました。

 MOFの資源循環への応用可能性は多岐にわたります。金属イオンと有機分子の組み合わせを変えることにより、細孔のサイズや形状を精密に制御し、特定の気体や金属イオンを選択的に吸着できます。この特性を活かして、例えばレアメタルやCO2の分離回収、水素の精製、リチウムイオン電池のリサイクルなどの課題に対して、有効な解決策を提供すると期待されています。世界的な環境規制の強化と資源安全保障の観点から、資源循環システムの構築は単なる環境対策をもはや超えており、国家/地域戦略となっています。MOFの可能性は、循環型社会の実現を技術面から後押しするものであり、持続可能な未来への貢献が期待されます。

 


(参考資料)
*1 欧州持続可能性報告基準(ESRS E5:European Sustainability Reporting Standards, https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2023/2772/oj/eng), 2025年12月12日閲覧 
*2 経済産業省 資源エネルギー庁(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/circular_economy_01.html), 2025年12月12日閲覧
*3 2025年ノーベル化学賞プレスリリース(https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2025/press-release/), 2025年12月12日閲覧
*4 2025年ノーベル化学賞インフォメーション(https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2025/popular-information/), 2025年12月12日閲覧

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