カーボンニュートラルを実現するためには、各企業がCO2をはじめとする温室効果ガス(GHG; GreenHouse Gas)排出量を削減する必要があります。企業のGHG排出削減(低炭素化)対策としては、省エネルギー機器の採用、再生可能エネルギーの利用、環境負荷の低い材料(バイオマス材料、リサイクル材料)の活用などがあります。また、新たな低炭素化技術や製品(以下、低炭素化技術等といいます)の開発も考えられます。低炭素化対策の効果は次のように算出されます。
低炭素化対策の効果=低炭素化対策導入後のGHG排出量-低炭素化対策導入前のGHG排出量
GHG排出量を削減した場合、その削減量は自社のGHG排出量(GHGインベントリ)に反映されます。また、場合によっては削減量をクレジットとして販売することもできます。しかし、開発した低炭素化技術等がその企業以外(B社)で使用される場合、削減量はその低炭素化技術等を開発した企業(A社)のGHGインベントリには直接反映されません。逆に開発した製品の生産量増加に伴って、その企業のGHGインベントリが増加する場合もあります(図1)。このように、GHGインベントリだけでは企業の低炭素化技術・製品による貢献度は評価できないことがあります。
このような効果を評価する指標として「削減貢献量(avoided emission)」が議論されています。削減貢献量は「ある低炭素化技術等が存在しない場合のGHG排出量と存在する場合のGHG排出量の差分」です(図2)。削減貢献量の活用によって、GHGインベントリの大小とは別観点から低炭素化技術等に対する評価が可能になります。これにより、低炭素に向けたイノベーションが促進されると期待されています。
過去に多くの企業や自治体等が独自に算出した「削減貢献量」を公表していましたが、算出方法は業界や企業により異なっていました。国際的な統一を図るべく、削減貢献量に関する検討が「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD; World Business Council For Sustainable Development)」によって行われ、2023年に「削減貢献量に関するガイダンス(Guidance on Avoided Emissions)」が公開されました。
削減貢献量はGHG排出量(GHGインベントリ)と同じくGHG量(単位:t-CO2eq)で表されますが、その意味合いは大きく異なります。このため、例えば企業のGHGインベントリを公開せず、削減貢献量のみを公開して低炭素化への貢献をPRすることは妥当ではないと考えられています。削減貢献量の公開に関して、WBCSDのガイダンスでは「企業のGHGインベントリ、二酸化炭素吸収量(carbon sink)とは別に削減貢献量を公表すること」、「企業のカーボンニュートラルを主張する際に使用しないこと」などを求めています。
これまで、企業の気候関連の非財務情報としては「GHGインベントリ」を公開することが一般的でした。一方で低炭素化技術・製品は市場の成長が見込まれており、削減貢献量が大きい企業ほど収益が増加するという分析結果もあります。そこで、企業の低炭素化に関する影響指標に削減貢献量を活用する動きが出ています。すでに一部の金融機関は投資分析やESGスコアに削減貢献量を活用しています。
GXリーグ(経済産業省によって設立されたGX推進の枠組み)のGX経営促進ワーキング・グループによって策定された「削減貢献量の普及に向けたロードマップ」のなかで、削減貢献量は「重要性の認知向上」、「企業による削減貢献量の開示の増加」、「先進的な金融機関等における企業評価への組み込み」、「評価・開示の普及」といった段階を経て世の中に浸透していくと記載されています*1。また、2023年の「G7札幌・気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明」には、削減貢献量の考え方が明記されています*2。さらにG7 広島首脳コミュニケでは、「脱炭素ソリューションを通じ他の事業者の排出削減に貢献するイノベーションを促すための民間事業者の取組を奨励・促進する。」とされており*3、削減貢献量の活用は今後いっそう進むと考えられます。
弊社ではLCA(ライフサイクルアセスメント)を実施しております。この業務の一環として、研究・開発段階における新技術・プロセス等の環境負荷低減効果の評価も行います。お気軽にご相談ください。
参考資料(参照日:2024年8月9日)
*1:「気候関連の機会における開示・評価の基本方針」GXリーグ 2023年3月
*2:経済産業省ホームページhttps://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/sakugenkokenryo.html*3:G7広島首脳コミュニケ仮訳https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100507034.pdf