■ギガキャストとは
ギガキャスト*1は、自動車の車体骨格などの大型部品を大型ダイカストマシンで一体成形する革新的な鋳造技術で、米Teslaが初めて導入しました。明確な定義はありませんが、おおよそ型締力*2が5000~6000t以上のダイカストマシンで製造した大型部品をギガキャストと呼称しています。
TeslaはModel Yの製造にギガキャストを導入し、171点にものぼるフロントおよびリアアンダーボディの部品をわずか2点にまで大幅に削減しました(図1)。部品数が減ることにより、従来プレス成形に必要であった金型、プレス部品の製造工程、組立・溶接工程などが削減されます。これに伴って人件費などの生産コスト削減や生産効率が向上します。また、溶接点数の削減による車体剛性の向上、アルミ化による車体軽量化など、ギガキャストの導入は様々なメリットをもたらすといわれています。
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図1 リアアンダーボディの製造における製造工程の比較例(従来/ギガキャスト)
■自動車メーカーの動向
現在、市販車にギガキャストを導入しているメーカーは、Teslaと中国メーカーです(表1)。特に、中国の新興BEVメーカーによる導入が増えており、さらなる大型化に向けた取り組みも進められています。
トヨタ、ホンダ、日産などの日系メーカーでもギガキャストを導入する予定があり、2027~2028年頃に市販車に採用される見込みです。
表1 ギガキャスト導入事例(一例)
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■ギガキャストの課題
冒頭でギガキャストのメリットを紹介しましたが、課題もあります。
生産に関する課題は、付帯設備も含めて設備投資が高額なこと、大型ダイカストマシンは非常に重量が重く、設置に地盤の補強が必要な場合があることなどです。また、大型ダイカストマシンの一部の部品やギガキャスト用金型は重量物であり、日本では特に輸送の許認可に時間を要します。さらに、製造した製品は非常に大きいため、輸送コストを考慮すると自動車生産工場内あるいはその近くに製造設備を設置する必要があります。
製品に関しては、以下のような課題があります。通常、構造部材に使うダイカスト製品は、強度や延性を向上させるために熱処理を行う場合が多いです。ギガキャストは非常に大きく熱処理が難しいため、非熱処理を前提とした合金開発や延性に依存しない衝突エネルギー吸収設計が重要になります。また、従来構造では適材適所に応じた素材の使い分けができますが、ギガキャストの場合には、単一合金での構造設計が必要なこと、必ずしも軽量化につながらないこと、割れに考慮した接合技術が必要になることなど、製品化にはクリアすべき課題があります。また、事故時は修理費が高額になる場合があります。
■今後の見通し
現在、ギガキャストを導入しているメーカーはTeslaおよび中国メーカーですが、次世代BEVで導入を検討している欧米や日本のメーカーがあります。また、鉄鋼メーカーやプレスメーカーなどはギガキャストに対抗して、鉄を利用した一体化技術などを開発中です。前述した課題はあるものの、ギガキャストは中国を中心にさらに拡大しますが、従来構造との使い分けが続くと考えられます。
*1 メガキャストなどとも言われる。
*2 ダイカストに使用する2つの金型を締付ける力のこと。ダイカスト製品が大型化するほどダイカストマシンは強い型締力が必要となる。