現代の産業構造において、プラスチックはあらゆる分野で使われる基盤素材です。一方で、使用済みプラスチックのうち、新たな製品材料として再利用される割合は世界で約10%に留まります1。背景には、回収された廃プラスチックに含まれる添加剤や使用履歴が分からないといった、バリューチェーン情報の不透明性があります。こうした情報不足は、リサイクル工程における品質のばらつきや価格競争力の低下につながります。廃プラスチックを価値ある資源として活用していくには、トレーサビリティの構築が欠かせません。
循環経済への移行を促すため、欧州連合(EU)では、製品のライフサイクル全体の情報を記録・共有する「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の導入が進められています。DPPは、持続可能な製品づくりを企業に求めるエコデザイン規則(ESPR)に基づく仕組みで、原材料からリサイクルに至るまでの情報を電子的に共有するものです。DPPは製品群ごとに段階的に導入され、特定種類の電池については2027年以降にバッテリーパスポートが義務化される予定です2。義務化が始まれば、DPPを持たない対象製品は欧州市場での取引が難しくなる可能性があります。
日本でも、プラスチックの資源循環を推進する情報連携基盤として、プラスチック情報流通プラットフォーム「PLA-NETJ」の構築が進められています3。欧州のDPPが製品・部品・材料を含む幅広い対象のライフサイクル情報を扱うのに対し、PLA-NETJはプラスチック素材の循環に焦点を当て、流通履歴や品質情報を追跡する点に特徴があります。具体的には、回収されたプラスチックがどこで加工され、どのような特性を持つ再生材として利用されるのかを記録することで、素材の由来や品質を可視化します4。これにより、業界をまたいだ資源循環や、用途に応じた再生材の調達が期待されます。
こうした基盤づくりは、着実に次の段階へと進もうとしています。2026〜2027年度の運用開始を目指す「製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォーム(CMP)」と、PLA-NETJの連携も検討されており、2028年度以降の本格運用が想定されています。対象はプラスチックにとどまりません。アルミニウムのトレーサビリティ実証をはじめ、家電・金属・建材・繊維などへの横展開も進もうとしています。各省庁や関係団体との連携を通じて、PLA-NETJをハブとする日本全体のリサイクル・トレーサビリティ・データ基盤づくりが広がりつつあります3。
データ連携の信頼性を支えているのは、分散型のシステム設計です。これは、PLA-NETJとも関係する「ウラノス・エコシステム」の考え方に通じるものです。ウラノス・エコシステムとは、企業や業界、国境を越えたデータ連携を実現するために、経済産業省が推進する情報連携の枠組みです。企業は自社データの管理権を保持したまま、機密情報を守りつつ、資源循環に必要な情報のみを共有できます5。PLA-NETJではさらに、「eシール」「タイムスタンプ」「ブロックチェーン」を組み合わせたトラスト機能により、データの真正性を担保しています6。
プラスチックは今、単なる廃棄物ではなく、客観的なデータに裏打ちされた「価値ある資源」へと変わろうとしています。素材の由来や品質を可視化し、安定した調達基盤を整えることが、サーキュラーエコノミー時代の競争力につながります。
1 OECD, Global Plastics Outlook: Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options, OECD Publishing, Paris, 2022. DOI: 10.1787/de747aef-en.
2 European Commission, “Digital Product Passport,” Single Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs,
https://single-market-economy.ec.europa.eu/industry/sustainability/digital-product-passport_en (閲覧日:2026年8月24日)
3 デジタル庁 “令和7年度 産業データ連携推進のためのエコシステム事例調査報告書”
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/82a1ea56-128f-4cf6-bbd5-9ef6d4b7bafc/afb72da5/20260428_policies_budget_report_data_coordination_ecosystem.pdf (閲覧日:2026年7月11日)
4 SIP第3期課題「サーキュラーエコノミーシステムの構築」 日本電気株式会社“プラスチック情報流通プラットフォームの構築ガイドライン0次案”、(PLA-NETJ)とは”
https://www.erca.go.jp/suishinhi/kenkyuseika/pdf/sip/overview/a201-2024.html_nec_20250131.pdf (閲覧日:2026年7月23日)
5 経済産業省 “ウラノス・エコシステムの取組について”
https://data-society-alliance.org/wp-content/uploads/2024/02/20240131_FutureData_02_METI_Takano.pdf (閲覧日:2026年7月23日)
6 日本電気株式会社“プラスチック情報流通プラットフォーム(PLA-NETJ)とは”
https://www.erca.go.jp/suishinhi/kenkyuseika/pdf/sip_nec_20250131.pdf (閲覧日:2026年7月23日)