レアアース(図1)は、電気自動車(EV)やハイブリッド車のモーター、風力発電設備、スマートフォン、家電など、私たちの暮らしと産業を支える多くの製品に使われている重要な資源です。少量を加えるだけで材料の性能を大きく高めることから、「産業のビタミン」とも呼ばれています。特に、ネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などは、高性能な永久磁石に欠かせない元素です。EVや産業用ロボット、発電設備などの需要拡大に伴い、レアアースの需要は今後さらに高まると考えられます。
の種類.png)
図1 レアアース(希土類元素)の種類
一方で、日本はレアアースの多くを海外からの輸入に依存しています。2010年のいわゆる「レアアース・ショック」以降、日本では国家備蓄の強化や調達先の多角化が進められてきました。近年では、豪州由来の重希土類を日本向けに供給する動きも始まっており、DyやTb(テルビウム)などの調達リスクを下げる取り組みが進んでいます。ただし、採掘だけでなく分離・精製といった中流工程でも特定国への依存が大きく、安定供給の確保は引き続き重要な課題です。
レアアースの供給を考えるうえでは、資源量だけでなく環境面への配慮も欠かせません。レアアース鉱石には、ウランやトリウムなどの自然由来の放射性物質(Naturally Occurring Radioactive Materials:NORM)が含まれる場合があり、採掘や精錬の過程では副産物や廃液を適切に管理する必要があります。また、元素ごとの性質が似ているため、目的の元素を高純度に分離するには多段階の化学処理が必要です。こうした工程には高度な技術とコストが求められるため、世界的に見ても分離・精製工程は限られた地域に集中しやすい構造になっています。
中国南部などに見られるイオン吸着型鉱床は、重希土類を比較的多く含む資源として知られています。これらの鉱床では薬品を用いてレアアースを抽出する方法が採られてきましたが、近年は環境負荷の低減や持続可能な採掘方法への関心が高まっています。今後のレアアース供給では、単に資源を確保するだけでなく、環境負荷を抑えた生産体制をどのように構築するかが大きな論点になります。
こうした背景から、使用済み製品からレアアースを回収するリサイクルにも期待が寄せられています。小型家電やモーター、磁石などに含まれるレアアースを再資源化できれば、輸入依存の低減や資源循環の促進につながります。しかし、実際には複合材料から目的元素を分離する技術や、回収コスト、安定した回収量の確保など、多くの課題が残されています。リサイクルを本格的な供給源として育てるには、技術開発と制度面の整備をあわせて進めることが必要です。
国内資源としては、南鳥島周辺海域の深海底に分布する「レアアース泥」も注目されています。これまでの研究から、南鳥島周辺の排他的経済水域に大規模なレアアース資源が存在し、埋蔵量は世界需要の数百年分に相当する可能性が示唆されています1。特に重希土類を含む資源として期待されており、NORMの含有量が陸上鉱床に比べて少ないとされる点が特徴です。ただし、深海からの採泥・揚泥、選鉱、製錬、環境影響評価など、商業化に向けては技術面・経済面の課題を一つずつ解決していく必要があります。
レアアースは、脱炭素社会や先端産業を支える一方で、供給リスク、環境負荷、コスト、技術開発といった複数の課題を抱える資源でもあります。日本にとって重要なのは、調達先の多角化、リサイクル技術の高度化、代替材料の開発、そして環境に配慮した資源開発を組み合わせ、総合的に供給基盤を強化していくことです。レアアースをめぐる取り組みは、資源安全保障だけでなく、持続可能なものづくりを実現するための重要なテーマといえるでしょう。
1 髙谷雄太郎、加藤泰浩、他「The tremendous potential of deep-sea mud as a source of rare-earth elements」『Scientific Reports』8, Article number: 5763 (2018)
https://www.nature.com/articles/s41598-018-23948-5(2026年7月1日閲覧)