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~21世紀は炭素の世紀~

今日味新深(No.88:2017/11/29)

フラーレンの発見により1996年にノーベル化学賞を受賞したH. W. Krotoは「19世紀は鉄、20世紀はシリコン、そして21世紀は炭素の世紀」と語っています。古来、木炭、黒鉛(鉛筆の芯)など日常生活で身近に使用されて来た炭素はその形を変化させ、多くの分野でその機能を発揮する可能性が指摘されています。この期待感を背景に、様々な炭素関連の研究開発プロジェクトがNEDOなどの国家プロジェクトとして実施されています。以下では、このような炭素にまつわる実用例、市場、技術開発動向などを紹介します。

◆炭素繊維・炭素繊維強化プラスチック(CFRP)

トラブルに見舞われながらも2011年に就航した米国の最新鋭旅客機Boeing 787は、炭素繊維を樹脂で固化成形した軽量高強度材(CFRP)の使用比率を機体重量の50%にまで飛躍的に増大させ(前世代機:Boeing 777では11%)、従来機に比べて20%超の大幅な軽量化を実現させました。また、欧州のAir Busは、Boeing 787の対抗機種であるA350に同材料を大幅に採用することで大きな注目を集めました。このように、航空機材料はCFRP、すなわち炭素繊維の時代に突入した感があります。

一方、低炭素社会(CO2排出が少ない社会)の実現に向けて、自動車の軽量化が喫緊の課題となっており、従来の鉄鋼、アルミニウム合金などの金属材料に替わりCFRPを採用する動きが活発化しています。例えば、BMW社の電気自動車(EV)i3ではCFRP製キャビンが採用され、2016年に約26,000台が販売されています。その他、トヨタ自動車(レクサス、プリウスPHV)、日産自動車(GT-R)でもCFRPの採用が着実に進展しています。しかし、CFRPを採用する場合の最大の課題はコストと安定供給体制です。航空機市場では重量単価が約10万円/kgでもコスト的に成り立ちますが、自動車市場では約千円/kgでもコスト的に成り立たないことがCFRP採用のネックになっています。

苦節40年、炭素繊維で世界市場の40%のシェアを有する東レの市場予測によれば、世界の自動車市場(約6,400万台/年)のうち、CFRPの採用車種を高級車(約400万台/年)に限定すると、1台当たりのCFRP使用量を100 kgと想定した場合には炭素繊維需要量:5万トン/年、CFRPの採用車種をボリュームゾーンである普及車(約6,000万台/年)まで拡大すると、炭素繊維需要量:65万トン/年になると試算されています。この際、炭素繊維価格を1,000円/kgと設定すると、炭素繊維だけで数百~数千億円/年の市場が形成されます。

そのため、炭素繊維、CFRPに関わる企業では、目前の大市場を目指して原料から加工まで種々のコストダウンを進めています。例えば、原料繊維では繊維束の大径化、成形法では高効率の新成形法や樹脂種の転換による成形時間短縮など生産性向上に向けた取り組みが行われています。また、これらに関連して、東京大学などのアカデミアにも炭素関連の研究拠点が整備されるなど、炭素関連の技術開発は今後ますます活性化することが予想されます。

◆ナノカーボン(フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブ)

炭素の大きな特徴の一つに多様性が挙げられ、炭素はダイヤモンド、黒鉛、繊維、それ以外の様々な物質に変化する多様性を有しています。20世紀末に次々と発見されたフラーレン、「神の材料」ともいわれるグラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素の同素体は、強度等の機械的特性以外に電子、電気、熱、耐食などの特性で既存材料を大きく凌駕する性能を有することが明らかになっています。

基本単位がナノメートルオーダー(10-9 m)であるこれら材料はナノカーボンと呼ばれ、強度、剛性等に優れる構造材料のみならず、機能材料(導電材料、半導体材料、電極材料)など多方面への応用が期待されています。最近報道されているCNTの技術動向を概観すると、実験室のアーク灰(煤)から偶然発見されたCNTには単層CNTと多層CNTがあり、前者については2015年に量産が開始され(価格:約百万円/kg)、後者については既に量産化、低価格化されつつあるものの、現状価格は数万円/kgと高く、鉄鋼、アルミニウム合金など汎用金属材料の数百倍の価格に留まっており、さらなるコストダウンが望まれています。

今後、ナノカーボンに対するさらなる量産化、低コスト化の課題が克服され、汎用材料として利用が進めば、「炭素の世紀」が到来する可能性を秘めています。

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