現在、「地球温暖化」に影響を及ぼす「温室効果ガス(GHG)」の排出量ゼロを目指して、世界の国々や地域でカーボンニュートラル(CN)の取り組みが進められています。2023年4月に札幌で開催された「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」では、気候変動対策の一環である「産業の脱炭素化」が合意されました。この会合では、生産プロセスにて二酸化炭素(CO2)を排出する産業の脱炭素化が重要と強調されています。
製造業のなかでも鉄鋼業は電力業に次ぐCO2排出源とされており、各国の政策に沿ったCO2排出量削減の取り組みが進められています。日本の鉄鋼業は、脱炭素化に向けて『高炉における水素還元製鉄』、『電炉による鉄鋼スクラップの利用拡大』などに取り組んでいます。また、日本政府は、CO2排出削減が見込める複数の技術を組合せて、2050年にはCNを達成するとしています。
世界的に鉄鋼生産量の多い中国、インド、EUでは、従来技術の高炉法から電炉法へ切り替える動きがみられます。その最大の理由は、電炉法は高炉法の約4分の1までCO2排出量を削減できるからです。EUは2050年までにCO2排出量を80~95%削減し、最終的にCNを達成する目標を掲げており、電炉法による鉄鋼生産がCO2排出量を削減する有効な手段になります。
ところで、電炉製鋼における主な原料は鉄スクラップです。電炉製鋼の増加に伴って、将来的に鉄スクラップの需要量は供給量を上回と予測されています。そのため、それぞれの国や地域では、輸入に依存することなく、自国で発生する鉄スクラップを有効利用する取り組みを進めています。
鉄スクラップの利用には、需要と供給のバランスに対する不安や不純物の問題があります。鉄スクラップは発生源別に大別できます。鉄鋼生産時に発生する自家発生スクラップ、製造業で自動車や家電製品を製造する際に発生する加工スクラップ、鋼構造物や製品の廃棄物から分離・分解した老廃スクラップです。
日本における2023年度の鉄スクラップ供給量(自家発生スクラップを除く)は、32百万トンであり、そのおよそ半分は老廃スクラップです。自動車や家電製品など廃棄物から分別される老廃スクラップは、銅などの鉄以外の金属、プラスチックなどさまざまな不純物を含みます。これらの不純物は鉄鋼製品の特性に影響を及ぼすため、高精度な分別や不純物濃度を下げるための技術開発が進められています。
鉄鋼生産において、鉄リサイクルすなわち鉄を含む廃棄物をいかに上手に使いこなすかが、CNを推進するうえで重要な技術のひとつになると考えます。